中国の「推し活」市場、グッズと遠征が生む巨大経済
「推し活」は、もはや日本だけの文化ではありません。中国にも独自の「推し活」があり、その市場規模と過熱ぶりは、日本の想像を超える部分があります。一方で中国政府は、行き過ぎた応援消費に対して明確な規制も行っています。本記事では、中国の推し活・ファンダム文化の実態と、そこから見える商機を整理します。
追星(ついせい):直訳すると「星を追う」。好きな芸能人・スターを応援すること
饭圈(ファンチュエン):「饭」はfanの音訳、「圈」はコミュニティ・界隈の意味。ファンダムに近い言葉
灯牌(デンパイ):LEDなどで名前やメッセージを光らせる、コンサート会場で使う応援ボード
結論:中国の推し活市場で押さえておきたい3つのポイント
1.応援は「消費」に直結する
推し色のファッション、応援メイク、グッズ、灯牌など、応援そのものが具体的な消費行動として市場を形成しています。
2.遠征がコンサート経済を生む
遠征比率 60%超2025年の中国の大型ライブでは、市外から訪れる観客の割合が平均60%を超えたと報じられています。宿泊・飲食・美容への波及消費も大きくなっています。
3.過熱した応援消費は規制対象
2021年以降、ランキング投票や高額課金をあおる仕組みは中国政府による規制の対象です。参入時にはこの点への理解が欠かせません。
1.中国の「推し活」を表す言葉
中国語で好きな芸能人を応援することは「追星(追いかける星)」と呼ばれます。ファンを中心に形成されるコミュニティは「饭圈」、応援することそのものは「应援」と、日本語の「応援」と同じ漢字が使われています。
2.ライブ会場が「推し色」に染まる
中国のライブ会場でも、日本と同じように応援カラーを身にまとうファンの姿が目立ちます。服、ヘアスタイル、ネイル、アイメイク、ヘアアクセサリーまで推し色で統一するファンも珍しくありません。2026年1月の現地報道では、こうした「応援ファッション」が若者のコミュニティを示すスタイルとして紹介されています。
特に近年目立つのが「応援メイク」です。ライブ会場周辺のメイクアップ専門店には、開演前に応援メイクを希望するファンが殺到し、1日に50件を超える注文が入ることも珍しくないと言われています。推しグッズを持つだけでなく、「自分自身が推しの応援ビジュアルになる」という発想が広がっています。
3.会場を彩る「灯牌」とファン専用列車
中国のライブ映像でよく見かける、客席に光る大きな文字。これが「灯牌」と呼ばれる、LEDなどで名前やメッセージを光らせる応援ボードです。あわせて「手幅」と呼ばれるハンドバナーも使われます。
2025年には、コンサート客向けの「ファン専用列車」が登場しました。車内には、ファンが持ち込んだ灯牌やハンドバナーを置いておける一時預かりスペースまで設けられており、鉄道会社が推し活グッズの存在を前提に設備を用意するほど、市場として認知されていることが分かります。
4.推しを追いかけて、街ごと移動する「遠征」
中国の推し活で特に大きくなっているのが「遠征」です。国土が広い中国では、2025年の大型ライブにおいて、市外から公演を見るために訪れる観客の割合が平均60%以上だったと報じられています。
ライブを見る、ホテルに泊まる、食事をする、観光する、美容院で応援ヘアを作る、応援メイクをする、グッズを買う――こうした一連の行動が、そのまま「演唱会经済(コンサート経済)」と呼ばれる大きな経済圏をつくっています。
5.ファンとの距離を近づける「活人感」
2025年以降、中国のエンタメ業界で注目されているキーワードが「活人感」です。作り込まれた完璧な存在としてのスターではなく、普通に話す・笑う・失敗する・日常を見せる・ファンとリアルタイムで交流する、「本当にそこにいる人」としての身近さが支持されています。
この象徴が、スマートフォンで見る縦型ショートドラマ「微短劇」から生まれる俳優たちです。作品をきっかけに人気が出た俳優が、頻繁にライブ配信でファンと交流することで、テレビの中の遠いスターというより「毎日スマホの中で会える推し」として支持を集めています。ライブ配信が、中国の推し活における非常に重要なファン交流の場になっていることがうかがえます。
6.過熱を防ぐための規制
中国の推し活が大きな転換点を迎えたのが2021年です。当時、ランキングのための大量投票、大量購入、組織的な資金集め、コメント欄の組織的な管理、ファン同士の攻撃、未成年者への高額消費の誘導などが社会問題となりました。
これを受けて中国国家インターネット情報弁公室は2021年、スターのランキング付けの廃止、課金型投票の規制、応援資金集めの管理強化などを正式に打ち出しました。2025年にもエンタメ分野の推し活問題への取り締まりが続けられ、2026年の公式報告でも、関連するネット環境の管理は継続されています。
「ランキングで勝たせる」「数字をつくる」「大量消費で愛を証明する」という競争型の応援は強く規制される一方、ライブに行く、推し色を身につける、SNSを見る、ライブ配信で交流する、グッズを楽しむ、といった消費行動そのものは引き続き活発です。
推し活グッズ(ハンドバナー、光る応援ボード、応援カラーのアパレル・ネイル・メイク用品など)や、遠征にともなう美容・宿泊関連の需要には、日本の技術やデザイン力が生きる余地があります。ただし、ランキング投票や高額課金をあおるような販促の仕組みは規制対象になり得るため、越境ECやライブコマースでの展開にあたっては、この規制の存在を踏まえた設計が欠かせません。

