中国でライブコマースが大盛況な理由
中国では、ライブコマースが一時的な流行ではなく、消費者にとって日常的な購買手段のひとつとして定着しています。
特に、中国版TikTok「抖音(ドウイン)」では、ショート動画やライブ配信で商品を知り、そのままアプリ内で購入する消費行動が広く浸透しています。
コロナ禍を経て急拡大した中国のライブコマース市場
中国では、コロナ禍を契機にオンラインで商品を購入する習慣が急速に広がりました。
中国インターネット情報センターの調査によると、2020年12月時点のライブコマース利用者は3億8,800万人に達し、そのうち66.2%が実際にライブ配信を通じて商品を購入していました。
その後も市場は拡大を続け、政府系研究機関などがまとめた「2025直播電商業界発展白書」では、2019年から2024年までの中国ライブコマース市場規模は12倍以上に成長したとされています。
2025年のライブコマースGMV(流通取引総額)は約11兆2,000億円(5兆元)を超え、中国のオンライン小売額の約3分の1を占める規模に達しました。利用者規模は約6億6,000万人以上と推計されています。
なお、抖音電商単独の年間GMVについては、ByteDance社が各年の確定値を継続的に公式公表しているわけではありません。そのため、本記事では未確認の推計値を掲載せず、中国ライブコマース市場全体の公表データを使用しています。
なぜ中国ではライブコマースが支持されるのか
ライブコマースが中国で定着した背景には、単に商品を安く購入できるという理由だけではなく、従来のECでは得にくかった情報と体験があります。
1.商品をリアルタイムで確認できる
一般的なECサイトでは、消費者が確認できる情報は商品画像や説明文、購入者レビューが中心です。
一方、ライブ配信では、配信者が商品を実際に手に取り、質感や大きさ、色、使用方法などを動画で見せることができます。
たとえば、視聴者から寄せられた、
- 実際の大きさを見せてほしい
- 裏側や容器の形を確認したい
- 肌に塗ったときの質感を見たい
- 別の商品と比較してほしい
といった質問にも、その場で対応できます。
消費者は購入前に疑問を解消しやすくなり、商品を実際に確認できないというオンライン購入特有の不安を減らすことができます。
ただしライブ配信であれば必ず正確な情報が伝わるとは限りません。中国の行政機関も、誇張表現、商品説明と実物の相違、虚偽の販売実績などについて注意を呼びかけています。
2.短時間で多くの商品情報を得られる
現代の消費者は、複数のECサイトや口コミを長時間かけて比較するよりも、短時間で商品の特徴を把握したいと考える傾向があります。
ライブコマースでは、配信者が商品の主な特徴、使用方法、対象者、価格、注意点などを整理して説明します。
視聴者は、自分で複数のページを検索しなくても、商品の判断材料をまとめて得ることができます。
また、気になる点があればコメントを通じて質問できるため、動画を見るだけの一方向的な広告とは異なる購買体験が生まれます。
3.「検索して買う」だけでなく、「見つけて買う」
従来のECは、消費者が欲しい商品を検索し、比較したうえで購入する仕組みが中心でした。
一方抖音(ドウイン・中国TikTokの意)では、ショート動画やライブ配信を見ている途中で商品に出会い、興味を持ち、そのまま購入へ進むことができます。
つまり、
欲しい商品を検索する購買行動から、動画を見ながら商品を発見する購買行動へ
変化しているのです。
TikTok社は、このようにコンテンツを通じて商品を発見し、アプリ内で購入まで完結する仕組みを「ディスカバリーEコマース」と位置づけています。日本でも2025年6月30日にTikTok Shopの提供が開始されました。
4.配信者への信頼が購入判断に影響する
ライブコマースでは、「何を買うか」だけでなく、「誰が紹介しているか」も重要です。
視聴者は、普段から見ている配信者の説明や使用感を参考にしながら、商品を選びます。
特に、特定の分野に詳しいKOLや販売実績を持つ配信者は、消費者に代わって商品の特徴を整理し、選択肢を絞り込む役割を担います。
そのため、企業が中国市場で商品を販売する際は、単にフォロワー数の多い配信者を選ぶのではなく、商品カテゴリー、視聴者層、販売実績との相性を見極める必要があります。
5.買い物そのものがエンターテインメントになる
中国のライブコマースでは、商品の説明だけでなく、視聴者との会話、実演、比較、限定企画などを組み合わせて配信が構成されています。
コメント欄には視聴者がリアルタイムで参加し、質問や感想を共有します。
この双方向性により、ライブコマースは単なる通販番組ではなく、視聴者が参加するエンターテインメントとしても機能しています。
商品を探すためだけに配信を見るのではなく、配信を楽しんでいる過程で商品を知り、購入に至る点が、従来のECとの大きな違いです。
日本でもソーシャルコマース市場が本格始動
日本では以前から、SNSをきっかけに商品が売れる「TikTok売れ」などの現象が見られていました。
TikTok社は、2021年時点で「#TikTokMadeMeBuyIt」に関連する動画が世界で60億回以上再生され、日本でも動画をきっかけに商品の販売数が伸びた事例を公表しています。
さらに2025年6月には、日本国内でもTikTok Shopが開始され、動画やライブ配信から商品購入までをアプリ内で完結できる環境が整いました。
その意味で、2025年は、日本におけるソーシャルコマースが本格的に動き始めた年のひとつと位置づけることができます。
中国での定着は、販売方法そのものの変化
中国でライブコマースが大きく成長した理由は、単に利用者数が多いからではありません。
- 商品を動画で確認できる
- その場で質問できる
- 短時間で情報を得られる
- 信頼する配信者から購入できる
- コンテンツを楽しみながら商品を発見できる
こうした要素が、ひとつの購買体験として成立しているためです。
中国市場への越境ECを検討する日本メーカーにとっても、商品を出品するだけではなく、動画やライブ配信を通じて、誰が、どのように商品の価値を伝えるかが重要になります。
中国のライブコマース市場は、すでに「動画を使った販売手法」という段階を超え、商品との出会いから購入までを担う重要な販売チャネルへと成長しています。